THE PASSION FOR TOURBILLON
FRANCK MULLER

Challenge For

High Speed
Rotation

高速化への挑戦

フランク ミュラーは5秒に一回転する超高速キャリッジを世界で初めて実現した。トゥールビヨンの高速化を目指す潮流を先駆ける姿勢こそ、フランク ミュラーが掲げる挑戦的な姿そのもの。常識を超えた高速化は、職人たちの情熱の証しであり、トゥールビヨンの未来を拓く特別な一歩でもある。

サンダーボルト トゥールビヨン

7889TFSQTBR AC

SS 55.05×40.65㎜ 手巻き

¥41,800,000(税込)

世界最速でキャリッジを回転させる秘策とは?

自社製となるフライング トゥールビヨンキャリバーの完成を皮切りに、21世紀に入って、ますます「マスター オブ コンプリケーション」の名に相応しいプレゼンスを発揮するフランク ミュラー。姿勢差の解消によって精度を向上させるというトゥールビヨン本来のミッションをあらゆる方法で進化させてきた。
そんななかで、フランク ミュラーは60秒で一回転するキャリッジをさらに高速化させることに目を向け、新たな挑戦をスタートさせる。その理論的裏付けはこうだ。早く回転するコマは、そのスピードに比例して慣性モーメントが増大し、止まりにくくなる。つまり、回転体であるキャリッジのスピードを高めて安定的に精度を獲得しようというわけだ。

かくして2013年、キャリッジが5秒で一回転する、世界最速のトゥールビヨンである「サンダーボルト トゥールビヨン」は誕生した。
従来のトゥールビヨンに比べて12倍ものハイスピードを実現した本作は、時計界に快哉をもって迎えられた。
実際、この速度が精度向上に寄与するか否かは議論の余地があるかもしれない。しかし、時計史において大きな一歩を踏み出したことは紛れもない事実だ。

「サンダーボルト トゥールビヨン」では径14.37㎜のバレルを採用。「ギガ トゥールビヨン」同様に2層×2列の4香箱から2番車、3番車、4番車とつなぎ、速度を速めるための中間車を挟んで、キャリッジに連結。

その前夜として、フランク ミュラーは、1986年に「フリー オシレーション トゥールビヨン」を発表。ブリッジ式ながらも自由振動という独自の概念で時計界に感嘆を与え、その後もこの機構にミニッツリピーターを組み合わせるなど独自の進化を遂げていく。
そして、2002年。ついにフライング トゥールビヨンを搭載した「レボリューション1」を発表した。プッシャーを押すと風防側にトゥールビヨンのキャリッジが迫り出していく独創的な仕掛けで、フライング式が達成したい美観の向上という目的に対して、よりエンターテインメント性をもって実用化させたコンプリケーションウォッチだ。

ここにたどり着くには、ウォッチランド初となる自社製ムーブメント「FM2001-­2」の誕生が不可欠であった。2001年にウォッチランド内にふたつのアトリエ棟が完成したことも密接に関係する。フライング式の最大の懸念点であったのが、回転するキャリッジを支えるのが地板側のみとなり、回転軸が重力によってブレてしまうことだ。これをこのキャリバーでは、大きくふたつの方法で解消している。

まずは、キャリッジを支える軸受にセラミック製ボールベアリングを採用したこと。従来のスティール製とは異なり、完全な球体に近い形状と滑らかな表面を実現したことで摩擦を減少させ、姿勢差でのキャリッジのブレや傾きを最小限にして安定性を高めた。

「いかなるときも挑戦する。その姿勢にこそ、フランク ミュラーの哲学が表れる」と設計責任者が語るとおり、ブランドの独創性と高い技術力、そして、そのハイスピードが織りなす美しさまでもが融合する唯一無二の時計なのである。
完成へのプロセスが複雑であることは、その構造からも明らかだ。最大のポイントとなるのが、新設計による調速機構の大胆な改良だ。その中心となるのが、本作で初めてこの世に登場した「固定ガンギ車」の存在である。

通常、アンクルによって回転させる外向きの歯が付くパーツであるガンギ車は、一般的なトゥールビヨンでは、調速機構としてテンプやヒゲゼンマイとともにキャリッジに載っている。
一方で「固定ガンギ車」は、ガンギ車のみをキャリッジの外に出して歯を内向きに配置。15個ある歯を1秒で6振動(1秒で3歯)進ませるパーツとして設計された。テンプの振動数を生かしながら、最速でキャリッジを回転する策を講じたというわけである。ガンギ車に、テンプとアンクルのみを搭載したキャリッジが乗った状態をイメージすれば、わかりやすいだろう。同時に、ガンギ車をキャリッジの外に出すことで、軽量化にもひと役買っている。

ギガ トゥールビヨンの輪列

繊細な形状をした「固定ガンギ車」の製造には「エレクトロフォーム」と呼ばれる先端的な加工技術が採用されている。詳細はのちの項(P.21)に譲るが、緻密な設計どおりの工作精度を実現する製法だ。
気になるトルクの点だが、トノウ カーベックスケースに収まる「ギガ トゥールビヨン」が備えていた、直径17mmのテンワで69・4mg・㎠もの慣性モーメントを生み出した、有り余る香箱トルクを生かして、これを解決。大型キャリッジを載せる「ギガ トゥールビヨン」を約6日間駆動できる4バレルのムーブメントは、高速回転に必須の十分なトルク供給を実現するべく設計されている。

輪列の設定については、4番車にキャリッジを直結した「ギガ トゥールビヨン」だが、「サンダーボルト トゥールビヨン」では、キャリッジに至るまでに増速中間車を挟み、高速回転に対応。数々の改良後、パワーリザーブについては、「ギガ トゥールビヨン」では約6日間だが、「サンダーボルト トゥールビヨン」では約50時間駆動を実現することに。

ベースとなった「ギガ トゥールビヨン」の輪列。通常のトゥールビヨンでは、4番車上のキャリッジにテンプ・アンクル・ガンギ車が載った状態に。左)テンプ(2)が収まるキャリッジ(1、3)は、増速中間車から伝達された動力を振り石(5)を介してアンクル(4)の動きへと変換。アンクルが台(7)に支えられた固定ガンギ車(6)の内側を1秒3歯の速度で進む。

サンダーボルト トゥールビヨンの輪列
「サンダーボルト トゥールビヨン」では径14.37㎜のバレルを採用。「ギガ トゥールビヨン」同様に2層×2列の4香箱から2番車、3番車、4番車とつなぎ、速度を速めるための中間車を挟んで、キャリッジに連結。

また、「サンダーボルト トゥールビヨン」に要する過大な慣性の調整はとりわけ難しいことが推察されるが、優秀な時計師たちが高い技術で組み上げることで実用可能としている点も付記したい。 現職の設計師は「5秒で一回転するキャリッジの性能は非常に優れています。しかし、精度をさらに高めるための挑戦を続けていきたい」と語る。卓越した性能に満足することなく、限界を押し広げて挑戦し続ける職人魂がここにある。