Painting A Future Of
Tourbillon
トゥールビヨンは今、完成形なのか。その未来はいかなるものか。その行く末について、ウォッチランドの職人たちの言葉とともに思いを馳せてみたい。
「トゥールビヨンは、まだ成熟していません。それは、その可能性が果てしなく広がり、挑戦の道が終わることなく続いているからです」とは、共同創業者ヴァルタン シルマケス。未来への意志が明確に表れている。
フランク ミュラーが2000年初頭から取り組んできたコンプリケーションの完全内製化の動きは、トゥールビヨンの発展とともにあったと言っても過言ではない。2001年に完成したふたつのアトリエ棟は現在4つにまで拡充。これまでの約四半世紀の歴史においても、“マスター オブ コンプリケーション”の名に相応しく、トゥールビヨンにおいても数々の金字塔を打ち立ててきた。その軌跡は、ヴァルタン シルマケスの想いを裏打ちする。
時計界全体を見渡しても、フランク ミュラーは、進化・発展するトゥールビヨンを牽引する卓越した存在だ。とりわけキャリッジを地板側のみで支えるフライング式は、美観をも重んじるブランドの真骨頂といえるだろう。
「遠目からもひと目でそれとわかるデザインが私たちのトゥールビヨンの魅力。風防から近距離で動くその姿を見るたびに、由緒ある時計製造の伝統をつないできた時計師たちの息吹に触れることができます」と、設計部とパーツ製造部との橋渡しをする外装パーツエンジニア、マウロ・ソリダは誇る。
外装で言えば、2021年に美観と機能の両方を高めた「グランド カーベックス」と呼ばれる新たなケースを誕生させ、そこにトゥールビヨンを搭載した時計も開発している。なかでも、ダイアル中央にトゥールビヨンが鎮座する「グランド セントラル トゥールビヨン」は、キャリッジを回転させて見る者を楽しませるこの複雑機構の、現在と未来をつなぐような存在だ。
また、設計師のパトリック・ペレやトゥールビヨンのアトリエを統べるダミアン・デストは、「これまで以上にブリッジ式を発展させる道もある」と提示する。フライング式を追求し、挑戦し続けてきた歴史を鑑みれば、「ブリッジ式」がフランク ミュラーにとっての新たな道ということもできそうだ。実際、「ヴァンガード グラビティ」や「トノウ カーベックス トゥールビヨン30th」を筆頭に、ブリッジ式も複数揃え、この分野でも新たな地平を切り拓くことに期待を抱かせてくれる。
「理想という夢に向かって、ウォッチランドの職人たちは日々挑み続けています。その道のりには、必ず技術的な制約が立ちはだかるもの。しかし、これを糧として乗り越えることで、その時は想像できなかった新たな夢を掴むことができるのです。理想と現実の間を往来しながら創意工夫を重ね、必ず何かを達成することが、フランク ミュラーに新たな価値を与えるのです」
デザインを統括するジョン=ルー・グレナによるこの言葉は、トゥールビヨンを磨き上げてきた試行錯誤そのものだろう。続けて、「私は航空学やその他の分野から得られる時計製造技術の進歩により、実際にはトゥールビヨンはさらにスペクタクルな方向に向かっていくと思います」と未来を見据える。 そして、その発展にはユーザーの存在の重要性にも触れて、こう語った。
「トゥールビヨンが美しい複雑機構であり続けるには、それを手がける人間と、その知性を愛する人間の両方の存在がなくてはならないのです」
コンテクストを読み解く楽しみを与えられたユーザーは、現代において夢を担う存在でもあるという。だからこそ、ヴァルタン シルマケスはユーザーを重んじる。
「時計愛好家たちの夢を創出するために、ウォッチランドを発展させ続けていく。それが、私たちの使命です」
トゥールビヨンの進化。決して後ろに戻らぬ針のように、フランク ミュラーは、さらなる高みへ挑み続けるのだ。