MASTER OF COMPLICATIONS
FRANCK MULLER

STEP5 ダイアルづくり 時計の“貌(かお)”を手掛けるという信念と矜持 ─表情を演出するための装飾─

STEP5 ダイアルづくり 時計の“貌(かお)”を手掛けるという信念と矜持 ─表情を演出するための装飾─

どんなに個性豊かなケースであっても、それにふさわしい文字盤がなければ、完璧とはいえない。その製造を委ねるのが文字盤専門会社であるフィル・ダーノルド・リンデール社だ。1974年にル・ロックルで創業し、1996年からフランク ミュラーの文字盤製造を始め、1999年にその傘下に入り、翌年現在地に移転した。

製造工程は、ウォッチランドで作成したデザイン画を基に、図面化し、地板の切り出しから成形、装飾パターンのスタンプ、塗布コーティング、インデックスや数字などのペイントや植え付けなど多岐にわたる。マニュファクチュール体制の下、文字盤一枚にも多くの技術者の技とノウハウが詰まっているのだ。それでも製作時に壊れてしまったり、検品で落とされたりするものも多く、高品質な文字盤だけがウォッチランドへ出荷される。

同社の最高責任者は、「自分たちこそがフランク ミュラーを作っている」と自負する。ここで作られる文字盤こそが時計の魅力を左右する貌であり要だと信じているからだ。その矜持が時計に美しき生命感を吹き込む。

新開発されたダイアルは
4度のスタンピングにより
美しく精緻な模様を刻む

円形の真鍮プレートをスタンピングし、炉に入れる。これを4回繰り返すことで、徐々に美しいギョウシェパターンが浮き上がってくる。
コイル状に巻かれた真鍮から、専用切削機で自動的に円形に打ち抜かれる。
その真鍮プレートをプレス機の金型の上に置き、上から180トンの圧をかける。
土台に設置されたギョウシェパターンの金型。これはフィル・ダーノルド・リンデール社で図面化し、金型の専門工場で製造する。
文字盤製造を担う先鋭工場

装飾した真円のダイアル板を
専用のプレス機でトノウ型に

パターン装飾が施された円形のプレートを専用プレス機で文字盤のトノウ形に打ち抜く。
スタンピングされた装飾を損なわぬよう、作業は繊細に行われる。

ダイアルを固定するために
裏面に施す足付けの作業

以降の工程の準備として、文字盤をプレス機に固定するための足付けを行う。ピンセットを使い、1本ずつ足を専用機に備える。
文字盤の左右に足付けされた状態。

中央を丸型に切削することで
トゥールビヨンを覗かせる

「グランド セントラル トゥールビヨン」では、文字盤の中央にキャリッジを収めるための穴を穿つ。
円形にカットされた状態。トノウ形全体の中でもかなりのスペースを占めることがわかる。

緩衝材を挟んだ状態で
高圧をかけて湾曲させる

金型の上に置き、表面を傷つけないよう黄色いプラスティックの緩衝材を挟んで上からブレスする。この緩衝材は文字盤素材の厚さや硬さによって変えられる。
立体成型された状態。
繊細な作業にあたる女性の技術者。

@フィル・ダーノルド・リンデール社
最高責任者

ジョン=ポール・ボイヤ

電子工学を学び、異分野からの発想やノウハウを生かす。フランク ミュラーの文字盤は常に挑戦への情熱をかき立てるという。

STEP3 ダイアルづくり “すっぴん”の貌(かお)に施されるメイクアップの魔法 ─色付けによる美しさの飛躍─

STE32 ダイアルづくり “すっぴん”の貌(かお)に施されるメイクアップの魔法 ─色付けによる美しさの飛躍─

繊細なパターンを施し、立体成形された文字盤はいよいよ装飾の工程に進む。一般的な文字盤がフラットなのに対し、フランク ミュラーのそれはカーブが付けられ、ボリュームもある。

それだけに作業も難しい。さらに難関は、豊富なバリエーションにおける少量多品種の製造であり、現場では常に技術や工程が見直され、日進月歩で進化を遂げる。そしていつも同じではなく、常に新しいことに挑戦し、生み出すことができるというのはとても嬉しいと製造責任者は胸を張る。

まずは木屑を使った専用液で
ダイアルを洗浄して磨く

スタンピング装飾を施し、トノウ形に成形した文字盤は、まず下地処理として、切削後の粉を落とし、地色のくすみをなくして均等に整えるため、複数枚を並べてブラシで洗浄する。
この時に使われるのがパナマの樹木チップから作った洗浄溶液。天然樹脂によって泡立ち、真鍮の油を落とす効果がある。
洗浄後、再び専用トレーに並べ、大きなドラム内で回転と加熱で乾燥。
乾燥後は美しい光沢が出る。これで下地処理が終了、次の工程へ。

液体に浸して電気を通す
ロジウムコーティング

下地の真鍮製ダイアルパーツにロジウムをコーティングする。塗装とは違い、イオン化した金属を被膜するため剥がれにくく、変色を防ぎ、耐錆性や強度も増す。
電解液に文字盤を浸し、直流の通電によって液中の金属イオンを表面に被膜する。
治具に文字盤をセットし、液体に浸す。
コーティング後の文字盤は、美しい輝きとともに装飾の凹凸もより際立つ。

ダイアル塗装は
職人が丁寧に仕上げていく

塗装はクリーンルーム内で行われ、ロジウムコーティングした表面に薄く、均等に吹きつける。約10分間自然乾燥し、グランド カーベックスはこれを3回繰り返す。
塗料を手作業で塗布する。他モデルのエナメル塗装は塗布後、炉に入れて乾燥し、全自動で行われる。
丁寧な塗装により装飾の模様が美しく際立っている。

薄膜を真空蒸着させて
色付けを行うPVD加工

窒化金属を蒸発させ、素材に被膜を作る物理蒸着のPVD加工は、時計ではケースで多用される。金属被膜のため、硬度は増し、多彩なカラーにも対応する。近年では文字盤の塗装目的にも用いられるようになった。
フランク ミュラーではブラック文字盤でもPVD加工を導入している。

ひとつひとつ転写される
インデックスや文字データなど

ロゴマークや数字に用いられる転写プリント。塗料でレタリングなどを起こし、それをシリコンパッドで拾い、文字盤上に転写するもの。
凹凸面でもプリントが可能で、グランド カーベックスの文字盤に「SWISS MADE」を記す。均等に仕上げるため2度繰り返す。
測定器で正確な位置をセッティングし、作業する。単色刷りなので多色の場合はこの工程を重ねる。

@フィル・ダーノルド・リンデール社
プロダクション責任者最高責任者

アラン・ヴィオネ

「フランク ミュラーの幅広いデザインやサイズの魅力と製造の難しさは表裏一体。でもそれが我々を進化させる」と語る。

STEP3 ダイアルづくり それは機械式時計の“すごみ”を雄弁に語る ─パーフェクトな美貌の完成─

STE32 ダイアルづくり それは機械式時計の“すごみ”を雄弁に語る ─パーフェクトな美貌の完成─

トノウ カーベックスのケースと並び、ビザン数字はフランク ミュラーの独創性を象徴するアイコンだ。

ケースに伴って立体化した文字盤に合わせて、アプライドの数字もまた大胆なカーブを描き、その三次元の造形美に加え、数字は鮮やかに彩られる。

そこには、かつてカラードリームの製作で多彩な色表現が求められ、磁器や皿の絵付けをした女性たちを起用したというエピソードも残る。こうしたジャンルを越えた異才が源流となり、いまも文字盤というアートピースを作り上げているのだ。

金属板を専用機にかけて
インデックスの切り出し準備

アプライドインデックスの製造工程は以下の通り。まず円形の真鍮プレートに数字を浅く彫り、その裏側には文字盤に植えるための足をつける。これを洗浄後、数字が掘られた溝に水溶性の接着剤を流し込む。
準備が済んだら裏返し、フライス切削で数字部分をカットする。この時、台座から数字は切り離されてはいるが、接着剤によって完全に分離はしていない。
細かな工程はすべて職人の手によって制御され進められていく。

インデックスをセットして
裏面で“足”を削り固定する

フライス切削が済んだ円形のプレートは、液体に浸すと約2分で接着剤が溶け、数字が分離する。専用機により自動で行うものと手動で行うものに分かれる。
台座と数字が分かれた状態。1枚の文字盤に要するインデックスの1セット分だ。

ダイアルの形状に合わせて
インデックスも湾曲させる

カットされたインデックスは洗浄後、同じ数字毎に分別され、円形の台座を取り囲むようにセットする。この状態で磨きの仕上げを施すとともに、先端にカーブをつける。

インデックスをセットして
裏面で“足”を削り固定する

完成したインデックスを文字盤のカーブに沿って植え、裏側から足の部分を削り、完全に固定する。
植え付けは硬さによって機械を使うこともあるがほとんどは手作業で行われる。
職人たちの手によってインデックスのセッティングが完了した文字盤はカバーがかけられ、次の工程へと進む。

インデックスの色付けは
ハンドペインティングで行う

アプライドインデックスの色付けは、注射器のような専用ツールを使って着色する。
転写にも用いられる水彩塗料。デザインに合わせて事前に調色したオリジナルカラーをそれぞれチューブに入れ、用意する。
作業は拡大鏡を覗きながら手作業で行われる。その後、80〜100℃の炉入れで乾燥させる。

わずかな傷や歪み、汚れなど
細部まで入念に行われる検品

左/1枚の真鍮プレートから型抜き、ギョウシェ装飾のスタンピング、立体成形とペインティングから、ロゴ入れやアプライドの数字インデックスの植字を終えて完成した文字盤。
右/拡大レンズを使って1枚ずつ検品。それぞれの工程でチェックされてはいてもこの最終チェックではじかれ、再度やり直しが行われたり、廃棄されたりすることになる。
出荷を待つダイアル。

約100万枚ものダイアルが
ウォッチランドで保管される

フィル・ダーノルド・リンデール社から納品された文字盤は、ウォッチランドですべて保管される。多彩な製品バリエーションを揃えるだけに、その数は100万枚に及び、針も100万セットが出番を待つ。交換修理にも欠かせない、マニュファクチュールの証しだ。