スケルトン仕様が増えてきたこともあり、これまでシースルーバックでしか見ることのできなかったムーブメントのデコレーションの重要性が増している。どんなに精緻でも美観が伴わなければ魅力も半減してしまう。
これを完璧に仕上げるのが装飾担当の職人たちだ。しかも作業は目に触れないような細かなパーツにまで及ぶ。そして手首に着け、光を受けた瞬間、真摯な手仕事を実感するだろう。そこに込めた誇りと矜持が美しい輝きとなって深い感動を与えるのである。
作業箇所が周囲の光で乱反射しないように
工房は外光を遮り、手元の照明で面取りを進める。
まるでフェルメールの絵画を思わせる
静謐な空間で細かなパーツに向き合う。
面取りの作業はすべて
女性の技術者が担当している。
フライス切削を施した地板に対し、45度の角度で面をつける。
木の先端を作業箇所に合わせて削り、
ダイヤモンドペーストを着けて磨いていく。
スケルトンウォッチでは
約15種類のパーツにデコレーションを施す。
1枚の地板を仕上げるには、
11年の経験を持つベテランでも1日を要する。
@アトリエC
ムーブメント デコレーション
部門を統括し、13名の女性を指揮する。「自分たちの仕事が誰かの目に触れ、注目してもらえるのはとても嬉しい」と語る。
高級時計の装飾にはさまざまな伝統的な技法がある。
いずれも昔から受け継がれる工作機械や培われた手作業の技によって施され、その美しさを纏うことで美術工芸品の価値を宿すのである。
こうした装飾は、美しさを誇示するだけでなく、本来、埃や部品の慴動部に発生する金属粉を付着させることで、機械本体を守るために考案されたものも少なくない。いわば機能から生まれた美しさであり、職人の誇りとともにフランク ミュラーの時計を内から輝かせるのだ。
小さな円形の模様の一部が幾重にも規則正しく重なっていく装飾がペルラージュ仕上げ。まるで真珠のように見えることから名付けられた。回転工具の先に付けられた砥石で丹念に円を連ねていく。力を均等に保つ根気のいる作業だ。
ジュテック社で成形されたケースは、ここで磨きがかけられる。サンドブラストで面をならし、下処理を済ませてからポリッシュを施す。荒さの異なる回転バフを約10分間かけるのだが、かけ過ぎると本来のラインが崩れてしまう。
サーキュラーグレインは、かつて埃や金属粉を付着させるために用いられた仕上げ。幾重にも密接する円で構成された均一な模様を施すことで、小さなパーツも輝きを秘める。作業は限られた光の下、美しさが研ぎ澄まされる。
装飾を終えたパーツは、最後に金属の耐摩耗性や耐久性を高めるコーティングを行う。超音波で汚れや油分を洗浄した後、表面にロジウムを電気融着する。処理前後では、真鍮の色からシルバーになり、装飾の輝きも際立つ。
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