MASTER OF COMPLICATIONS
FRANCK MULLER

STEP3 ケースづくり 究極の造形美を生む途方もないプロセスの始まり ─プロトタイプと金型の製造─

STE32 ケースづくり 究極の造形美を生む途方もないプロセスの始まり ─プロトタイプと金型の製造─

トノウ カーベックス始め、フランク ミュラーのケース製造には、特化した技術と経験ノウハウが求められる。それはいかにマニュファクチュール体制を整えたウォッチランドでも難しい。ブランドの共同設立者ヴァルタン・シルマケスは、時計ケース製造出身であり、だからこそその重要性を認識していたのだろう。これに応えるのがジュテック社だ。

工程は以下の通り。まずウォッチランドで製造されたひな形のケースに対し、改めてジュテック社でデザイン画やすべての施工プランを制作。必要なプレス工具を揃え、すべて整った段階から試作完成までに約1カ月を要する。これをベースに両者で検討、調整が重ねられた末、量産に進む。

ケース製造はプレス機による成形鍛造で行なわれる。特筆すべきは、そのために必要な金型も自社で内製することだ。多品種のケース製造にスピーディに対応し、精度や品質を管理するためにも欠かせない同社の強みである。
こうしてジュテック社で作られたケースはウォッチランドに送られ、装飾などの仕上げの後、最終ケースとして完成する。両者が一体になった連係プレーが個性豊かなケースを生み出すのだ。

専用のプレス機による鍛造で
徐々に理想のフォルムに成形される
「トノウ カーベックス」ケース

専用のプレス機による
鍛造で徐々に理想の
フォルムに成形される
「トノウ カーベックス」
ケース

本拠地のウォッチランドにて
プロトタイプのケースを製造

ウォッチランド内でまずひな形となるプロトタイプを作成する。円形のプレート素材をワイヤー放電によって基本フォルムにくり抜く。約4時間半を要す。
左/切り出した後、より精細な形状にするためCNCフライス加工を施す。表面の3次元カーブの成形と、機構を収める内側の高精度の削り出し加工を行なう。
右/さらに上下の細かな穴開けなどは設置の向きを変える。
グランド カーベックスはインナーケースも同様の工程で製造される。

ジュテック社による、
成形に必須の金型と工具づくり

金型の素材には専用スチールを使い、放電切削用の銅の形に合わせてかたどられる。
フライス切削後は手作業で仕上げる。2ピース構造のグランド カーベックスの金型は、アウターケースに超硬スチール70型と銅30型の計100種、そしてインナーケース約25型。予備も含めると計150種にも及ぶ。
放電切削は一昼夜かけて切削。
ケースの改良に従って金型も更新されていく。歴代の金型はすべて保管され、現在は約4000種が稼働する。

@ジュテック社 管理責任者

ラチェル・ジャンヌレ

ケース製造のプランニングと鍛造成形を担う。「いってみれば料理のレシピを作るようなもの」と笑う。

STEP3 ケースづくり 60以上の工程を経て完成する独創的なフォルム ─繰り返し行われる鍛造成形─

STE32 ケースづくり 60以上の工程を経て完成する独創的なフォルム ─繰り返し行われる鍛造成形─

プレス→熱処理→プレス→熱処理…
この作業を繰り返して成形していく

金属に高い圧力をかけることで、素材内部の隙間をつぶし、結晶の微細化と方向を整え、強度を高める。

この鍛造製法でもフランク ミュラーでは、常温の状態でプレスし、金属の塑性を生かす冷間鍛造を採用する。成形が複雑になれば工程も増し、トノウ カーベックスでは約20回にも及ぶ。

さらにこの間、高圧によって不安定になった金属分子をより強固に接合させる熱処理が行なわれる。高温の炉に入れた後、時間をかけて冷やし、またプレスを繰り返すことで複雑な構造と強度を実現する。

資材の金属板を切削機にかけて
ケースの“原型”をつくり出す

左/ケース素材は長いプレート状で納品される。
右/これをケースのフォルムに近い形に打ち抜く。実はこの金属加工機はジュテック社でも最近導入したもので、それまではウォッチランド内で行なわれ、切り出された状態で同社に送られていた。いまも併行して行なわれているが、より効率の良い生産管理が進められている。
左/工場内はプレス作業とは思えないほど騒音は抑えられている。
右/完成したケースの原型。ここから加工が始まる。

ケースの“原型”を金型に納め、
高圧の冷間鍛造によって
形成する

打ち抜かれた鋼材をプレス機にかけ、上から高圧をかけ、少しずつ成形していく。プレス機は、3方向からと上からの1方向からの2種類がある。とくに前者は厚みのあるケース成形に適している。
ひとつのプレス工程の終わったケースはその都度、肉眼でチェックされる。
プレス工程を繰り返すことで金型も摩耗劣化していく。そのため、常にチェックされ、必要に応じて交換される。
異なる金型を使った次の鍛造形成に進む間に熱処理の工程へ。

高圧でプレスした
ケースに施す熱処理

左/ベルトコンベアーに並べられたケースがゆっくりと炉の中に送られていく。
炉の長さは10m程度、熱した後、徐々に温度を下げていく。SSの場合は1080℃で約10分。
ゴールド素材はベルトコンベアーとは方法が異なり、YGやPGなど同じ色に分け、700℃で30分焼入れする。その後、液体のシンクに入れ、さらにドライヤーで15分ほどかけて完全に冷やす。チタンも同じ700℃だが高温になってしまうため、冷えるまでにはより時間を要する。

高度なダイヤモンドセッティング
による美しい彩り

まばゆい煌めきを与える職人技

創造性溢れるウォッチメイキングへの情熱は豪奢なダイヤモンドを纏うジュエリーウォッチにも注がれる。厳格な基準により選別されたダイヤモンドは卓越した品質を誇り、唯一無二の時計を優美かつ華やかに彩るのだ。

その類まれな美しさを演出するのは、熟練した職人による高度なセッティング技術にほかならない。まばゆい煌めきを放つ時計は洗練と品格を湛え、手にする喜びは何ものにも代えがたい。

1 開けられた位置に爪を作る
2 ダイヤモンドを一粒一粒セット

事前にケースに開けられた溝状の爪道をドリルで広げ、
爪を作ってダイヤモンドを埋める。

3 爪を倒してしっかり固定
4 爪痕を滑らかに仕上げる

爪を倒して固定する。
専用の工具で滑らかに仕上げる。
作業は図面に従い、石はサイズで決められた位置に
セッティングされる。

5
6

セッティングの前にロウをバーナーであぶり、
ケースを固定する作業用の土台を成形する。
熱した土台でケースも暖まり、作業もしやすくなる。
伝統的な製法だ。
ウォッチランドで取り扱われるダイヤモンドの中には、
極めて希少価値の高いイエローダイヤモンドの姿も。

7
8 ハイグレードな品質を誇るダイヤモンドのみを採用!

ウォッチランドでは2022年、
敷地内にジュエリーセッティングの専用工房を新設。
そしてフランク ミュラーのジュエリーウォッチには
カラット、カラー、カット、クラリティ、そのいずれも
高品質なダイヤモンドが採用されている。