時計の精度をつかさどる、いわば心臓部ともいえるのが脱進機だ。多くの時計ブランドがその製作を専業サプライヤーに任せるのに対し、ウォッチランドはマニュファクチュールとして作り続ける。しかも二人の女性の手によって。
テンワの担当者は、時計の根幹に関わるとあって重責を感じる一方、動きを楽しんでいただけるのが楽しいと語る。そしてヒゲゼンマイの組み付け担当者は、自分が精度を出さないと次に作業する時計師が苦労すると作業に集中する。その思いが正確な時を生み出す。
デザインや設計、素材の成形加工から仕上げという長いプロセスを経て、組み立てに入る。それぞれの作り手たちの情熱がひとつに集約する瞬間だけに、より責任と難易度を増す。そして精緻な作業に創造性がいかんなく発揮されることはいうまでもない。その証左がスケルトンウォッチだ。
作業はトゥールビヨンなどの担当部署で行われ、コンプリケーションに匹敵する難しさを物語る。「ムーブメントのすべてが露わになり、魅力であると同時にチャレンジですね」と責任者は語る。スケルトンにもかかわらず約7日間のパワーリザーブを備え、その動力を蓄える2つの香箱を積層しても審美性を損なわない。さらにテンプを表側に移し、そのダイナミックな動きも楽しめるのだ。
「従来の古典的なスケルトンに対し、まったく新しいスタイルであり、継承というよりも様式美を再定義し作り上げる印象です」こうした独創性に組み立ての負荷は増すが、異なる世代が自由に話し合い、柔軟に対応できる現場の空気が支えると加える。
スケルトンとヴァンガードを融合し、繊細さと力強さという対極的な魅力を両立する。古典的なスケルトンが地板やパーツに凝ったエングレービングを施すのに対し、フランク ミュラーのそれはシャープなオープンワークと細部の美しい仕上げを特徴にする。それだけに傷も目立ち、組み立てには細心の注意が求められる。大径のテンワに加え、時計愛好家を釘付けにする毎時1万8000振動という伝統的なロービートの動きも特徴のひとつ。だがテンプを表に移すため、ケーシング後は精度調整がしづらく、その前に完璧な調整を終えなくてはならない。
フランク ミュラーの強みは、革新的な製品をスピーディに生み出し、いち早く次の開発に移る柔軟性が保たれていることと責任者はいう。そこには世代や上下の関係なく、コミュニケーションが保たれ、アイデアに対し、まずはやってみるというウォッチランドの気風が漂う。誕生したスケルトンも、斬新なデザインと力強いムーブメントの動きを融合する。それは、現代的なスケルトンの再定義であるとともに、時計のさらなる可能性の可視化でもある。そして組み立てという工程の重要性もさらに高まるのだ。
@アトリエA
チーフウォッチメーカー
「デザインや製造部門と常に連携し、ようやく完成します。組立てというのは、部署を超えたまさにチームワーク」と語る。
フランク ミュラーには、グランドコンプリケーションやトゥールビヨンの他、マスターバンカーやヴェガス、シークレット アワーズといった唯一無二の複雑機構がある。
クレイジー アワーズはその代表格だ。ユニークな機構故、組み立てにも通常とは異なる技術やノウハウを要し、半年の専門研修の他、三次元での考察が求められる。
その創造性は見る人を驚かせ、喜ばせる。だからこそ完璧な動作が必須であり、これを追求する組み立ては新たな感動を呼び起こすのである。
フランク ミュラーの独創的な時計製造を象徴する「クレイジー アワーズ」は、2003年に発表された独自の複雑機構。文字盤上には数字が無秩序に並び、60分が経過すると時針が現在の数字から次の数字へと瞬時にジャンプする時刻表示が特徴。
時計のケースは美観だけでなく、ムーブメントを外からの埃や水、衝撃から守り、その組み立ても機能に関わる重要な工程だ。とくに3次元曲線からなるトノウ カーベックスは、風防の取り付けにも高度な技術が注がれ、一体感ある流麗なフォルムが完成する。
さらにトノウ カーベックスの進化形では2ピースの別体構造が採用され、組み立てもさらに難易度を増した。だが洗練された美しさは決して複雑さを感じさせない。それこそが高級時計の本懐ということだ。
1992年のブランド誕生時に開発されたトノウ カーベックスは、常に時代の先進技術と感性を吹き込み、魅力に磨きをかけている。最新のグランド カーベックスでは、大きく湾曲したケースの上下にあるストラップの付け根まで風防で覆う。そのため、新たにインナーケースを設け、アウターベゼルとの2ピース構造を採用。広い開口部と素材のバイカラーの可能性も広げた。ただしケースが別体になったため、組み立ての工程は増え、組み合わせの難易度もさらに高くなった。魅力の進化は技術が支えているのだ。
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