MASTER OF COMPLICATIONS
FRANCK MULLER

STEP8 組み立て 無形文化遺産である時計産業が次代に遺すべきもの ─国宝級といえる時計師の技巧─

STEP8 組み立て 無形文化遺産である時計産業が次代に遺すべきもの ─国宝級といえる時計師の技巧─

時計の精度をつかさどる、いわば心臓部ともいえるのが脱進機だ。多くの時計ブランドがその製作を専業サプライヤーに任せるのに対し、ウォッチランドはマニュファクチュールとして作り続ける。しかも二人の女性の手によって。

テンワの担当者は、時計の根幹に関わるとあって重責を感じる一方、動きを楽しんでいただけるのが楽しいと語る。そしてヒゲゼンマイの組み付け担当者は、自分が精度を出さないと次に作業する時計師が苦労すると作業に集中する。その思いが正確な時を生み出す。

118本のチラネジを取り付ける
テンワの重量調整に使われるチラネジを取り付ける
2スムーズな回転と偏りがないかをチェック
片重りがないかを調べ、ある場合はチラネジを削ってテンワのバランスを調整
3ヒゲゼンマイの片側のヒゲ玉を天真に固定
天真にヒゲゼンマイを固定
4精度を測り、最適なヒゲゼンマイの長さを決定
モニターを見ながら振動の周期のズレを見極め、ヒゲゼンマイの長さを変えて調整する
5横から見た状態。最適な長さでカットする
ヒゲゼンマイをカットする位置を決める
6ヒゲゼンマイを持ち上げ、固有のクセを付ける
カットしたヒゲゼンマイを持ち上げる
7調整機と長年の経験によるクセ付けは熟練の技
専用の調整機を再度使いながら必要に応じて何度もクセ付けを行う
8ヒゲ持ちをテンプ受けに取り付ける
ヒゲゼンマイの先をムーブメントのパーツに固定

STEP8 組み立て ムーブメントに命が吹き込まれていく瞬間 ─求められるのは驚異の正確性─

STEP8 組み立て ムーブメントに命が吹き込まれていく瞬間 ─求められるのは驚異の正確性─

デザインや設計、素材の成形加工から仕上げという長いプロセスを経て、組み立てに入る。それぞれの作り手たちの情熱がひとつに集約する瞬間だけに、より責任と難易度を増す。そして精緻な作業に創造性がいかんなく発揮されることはいうまでもない。その証左がスケルトンウォッチだ。

作業はトゥールビヨンなどの担当部署で行われ、コンプリケーションに匹敵する難しさを物語る。「ムーブメントのすべてが露わになり、魅力であると同時にチャレンジですね」と責任者は語る。スケルトンにもかかわらず約7日間のパワーリザーブを備え、その動力を蓄える2つの香箱を積層しても審美性を損なわない。さらにテンプを表側に移し、そのダイナミックな動きも楽しめるのだ。

「従来の古典的なスケルトンに対し、まったく新しいスタイルであり、継承というよりも様式美を再定義し作り上げる印象です」こうした独創性に組み立ての負荷は増すが、異なる世代が自由に話し合い、柔軟に対応できる現場の空気が支えると加える。

1ムーブメントにメスネジをセッティング
2専用工具を使ってメスネジを圧入する
3軸受けの穴石として摩擦による摩耗に強い人工ルビーをはめ込む
4輪列となる歯車を順に取り付け。まずは秒針が付く四番車を
5続いて、仲介役となる三番車を
6分針が付く二番車を

スケルトンとヴァンガードを融合し、繊細さと力強さという対極的な魅力を両立する。古典的なスケルトンが地板やパーツに凝ったエングレービングを施すのに対し、フランク ミュラーのそれはシャープなオープンワークと細部の美しい仕上げを特徴にする。それだけに傷も目立ち、組み立てには細心の注意が求められる。大径のテンワに加え、時計愛好家を釘付けにする毎時1万8000振動という伝統的なロービートの動きも特徴のひとつ。だがテンプを表に移すため、ケーシング後は精度調整がしづらく、その前に完璧な調整を終えなくてはならない。

7そして時計の動力源となるゼンマイを収めた香箱車を
8軸受けをセッティング
9アンクルの爪石となる人工ルビーの取り付け
10時分針を取り付けた後インナーベゼルを取り付け
11ムーブメントをケースに収める
12ケースバックを取り付け
13組み立て終了!

フランク ミュラーの強みは、革新的な製品をスピーディに生み出し、いち早く次の開発に移る柔軟性が保たれていることと責任者はいう。そこには世代や上下の関係なく、コミュニケーションが保たれ、アイデアに対し、まずはやってみるというウォッチランドの気風が漂う。誕生したスケルトンも、斬新なデザインと力強いムーブメントの動きを融合する。それは、現代的なスケルトンの再定義であるとともに、時計のさらなる可能性の可視化でもある。そして組み立てという工程の重要性もさらに高まるのだ。

@アトリエA
チーフウォッチメーカー

ダミアン・デスト

「デザインや製造部門と常に連携し、ようやく完成します。組立てというのは、部署を超えたまさにチームワーク」と語る。

STEP8 組み立て 至高のウォッチブランドとしての格を見せつける ─複雑機構、その頂点に挑む─

STEP8 組み立て 至高のウォッチブランドとしての格を見せつける ─複雑機構、その頂点に挑む─

フランク ミュラーには、グランドコンプリケーションやトゥールビヨンの他、マスターバンカーやヴェガス、シークレット アワーズといった唯一無二の複雑機構がある。

クレイジー アワーズはその代表格だ。ユニークな機構故、組み立てにも通常とは異なる技術やノウハウを要し、半年の専門研修の他、三次元での考察が求められる。

その創造性は見る人を驚かせ、喜ばせる。だからこそ完璧な動作が必須であり、これを追求する組み立ては新たな感動を呼び起こすのである。

限られた職人のみが可能な
トゥールビヨンの組み立て

伝統的なトゥールビヨンの組み立ては熟練の技術が注がれる。巻き上げ中間車の先端に、逆回転防止用のラチェット式の歯車が取り付けられる。
テンプを設置した後、ケージ受けを固定する。
キャリッジのスムーズな動作を確認。
裏蓋から地板に輪列を取り付ける。
さらにブリッジで固定し、作業は完了。

独自のコンプリケーション、
クレイジー アワーズの組み立て

フランク ミュラーの独創的な時計製造を象徴する「クレイジー アワーズ」は、2003年に発表された独自の複雑機構。文字盤上には数字が無秩序に並び、60分が経過すると時針が現在の数字から次の数字へと瞬時にジャンプする時刻表示が特徴。

独自開発のモジュールをムーブメントに積層する。
クレイジー アワーズに必須の部品アワーカム
ユニークな計時を実現するのがこのアワーカム。45分経過後、残り15分で徐々にトルクがかかり、時針をジャンプさせる。確実に定位置にブレることなく止める。
巻き針を差し込む。
通常とはあがきが異なる上、ジャンプ時の振動に耐える必要もあり、調整は難しい。
レリーフインデックスのレアモデル。

STEP8 組み立て 機能や精度といった実用性を大きく左右するもの ─見落としてはいけない重要工程─

STEP8 組み立て 機能や精度といった実用性を大きく左右するもの ─見落としてはいけない重要工程─

時計のケースは美観だけでなく、ムーブメントを外からの埃や水、衝撃から守り、その組み立ても機能に関わる重要な工程だ。とくに3次元曲線からなるトノウ カーベックスは、風防の取り付けにも高度な技術が注がれ、一体感ある流麗なフォルムが完成する。

さらにトノウ カーベックスの進化形では2ピースの別体構造が採用され、組み立てもさらに難易度を増した。だが洗練された美しさは決して複雑さを感じさせない。それこそが高級時計の本懐ということだ。

1特殊な接着剤をケース縁に塗布
2サファイアガラスの風防をケースに貼り付ける
3風防とケースの間に隙間がないか目視で入念に確認
4紫外線を照射して接着させる
5風防の取り付けが完成!

ムーブメント&ダイアルを収める、
ケーシングの工程を順に解説

ムーブメント&ダイアルを
収める、ケーシングの
工程を順に解説

1992年のブランド誕生時に開発されたトノウ カーベックスは、常に時代の先進技術と感性を吹き込み、魅力に磨きをかけている。最新のグランド カーベックスでは、大きく湾曲したケースの上下にあるストラップの付け根まで風防で覆う。そのため、新たにインナーケースを設け、アウターベゼルとの2ピース構造を採用。広い開口部と素材のバイカラーの可能性も広げた。ただしケースが別体になったため、組み立ての工程は増え、組み合わせの難易度もさらに高くなった。魅力の進化は技術が支えているのだ。

1ムーブメント&ダイアルに時分針を取り付ける
2リュウズを操作しながら時分針が問題なく回るか確認
3インナーケースを準備する
4ケースにインナーケースを重ねる
5ケースの内側から四隅のネジを締めて固定する
6ムーブメント&ダイアルに接合したケースをかぶせる
7ムーブメントの裏からケースを固定するネジを締める
8リュウズを操作しながら時分針の回転を再び確認
9ケースバックを取り付けて四隅のネジを締める
10ケーシング完了!
11ケーシング後に防水性能の検査を行う